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技能実習制度の課題とその解決策とは

外国人技能実習生の失踪問題は国会でも取り上げられ、その背後にある送出し機関や受入側が関わった不法行為が明るみに出ました。国はこの問題を重視し、制度趣旨の徹底と外国人技能実習生の保護を図る観点から法律を改正するなどの改善策を講じましたが、実効が上がるか否かは今後の取り組み次第と言えます。

今回の記事では、この技能実習制度が抱える課題とその解決策について解説するので、ご参考にして下さい。

どのようなトラブルが多い?技能実習生受入の問題点とは

1993年に制度化された外国人技能実習制度は、開発途上国が必要としている技術や技能について、日本における実習を通してこれらの国に移転するための「人づくり」という、いわば国際貢献の一環としての取り組みです。しかし、この技能実習制度に関わる各機関や実習生当人の都合によって本旨が歪められ、様々な問題を引き起こしていると言うのが実態です。

深刻な失踪問題と不法就労

技能実習生の失踪問題が日本の国会で取り上げられるほどの社会問題となって久しい今日、彼らが失踪する原因はどこにあるのか、また、失踪後、どこで何をしているのかという実態把握から始めることにします。

法務省が発表した2018年末における「在留資格別在留外国人数の推移」によれば、技能実習生の総数は328,360人であり、過去最高となっています。直近5年間の推移では、2014年(167,626人)、2015年(192,655人)、2016年(228,588人)、2017年(274,233人)、と毎年大幅に増加しており、2018年は5年前の約2倍近くに達しています。

受入人数の増加とともに、失踪者の数もまた、(表1-1)に見るとおり増え続けており、2018年には9,052人に達しています。

(表1-1)技能実習生失踪者数の推移(法務省:技能実習制度の現状2018年3月23日)

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
総数 3,566 4,847 5,803 5,058 7,089
ベトナム 828 1,022 1,705 2,025 3,751
中国 2,313 3,065 3,116 1,987 1,594
カンボジア 58 284 656
ミャンマー 7 107 336 216 446
インドネシア 114 276 252 200 242
その他 304 377 336 346 400

法務省は、失踪者に対する聴取を実施し、その結果を公表していますが、この調査から得られた失踪動機は(表1-2)のようになっています。

(表1-2)技能実習生の失踪動機(法務省の聴取評の集計・複数回答)

動機 回答割合
1 低賃金 67.2%
2 実習後も稼働したい 17.8%
3 指導が厳しい 12.6%
4 労働時間が長い 7.1%
5 暴力を受けた 4.9%

増え続ける失踪者のその後の行動については、様々なサイトの記事でもうかがい知ることができますが、読売新聞社が独自の取材に基づき興味深い連載記事(「外国人失踪」2019年2月26日~)を掲載しています。以下、その一部を紹介します。(表1-2)の失踪動機とともに、技能実習制度に関係する各種機関の実像を含めた制度の欠陥が見えてきます。

ベトナム北部の農村出身者である技能実習生Aさんは、母国の送出し業者から「月12万円プラス数万円は稼げる」と説明され、2016年春に来日し鳥取県内の文具工場で働き出したものの、実際に受け取れたのは月10万円程度。業者の誇大宣伝と思われますが、この実習生は、来日前に徴収された手数料などで、借金が100万円を超えており、想定外の低賃金と借金が失踪に走らせる引き金となります。

現状の給料では、借金の返済だけで実習期間が終わってしまうとの焦りから、知人のベトナム人の誘いに乗り、「もっと稼げる仕事」を目指して外国人ブローカーの紹介で愛知県にわたります。愛知県では、機械部品の清掃の仕事に就き、その後も、太陽光パネルの設置作業の仕事で岐阜県や茨城県などに派遣されています。

愛知県に渡った時点で失踪であり、失踪した技能実習生が働くことは「入管難民法違反」の「ヤミ就労」となってしまいます。近年、ベトナム語のフェイスブックに、失踪者向けのページが多数掲載されており、建設現場や製造工場などでのヤミ就労の求人が豊富に存在します。多額の借金を抱えて来日した技能実習生は、より高い給料を求めてヤミ就労に走ることも多く、これが技能実習生の失踪を助長しているとも言われます。

このように、失踪した実習生にヤミ就労を紹介するサイトは、必ずしも高い給料を保障するものではなく、過酷な環境で強制労働を課されるケースや、場合によっては人身売買に近い境遇にさらされることも少なくないと言われます。食品工場で働いていた女性実習生は、SNSで知り合った中国人ブローカーに紹介されたヤミ就労先でパスポートを取り上げられ、建物に閉じ込められたといいます。幸い、知人の交渉で解放されましたが、媒体としてのSNSの危険性を垣間見ることができます。

一方で、SNSには、「日本人にいじめられています。逃げたい」、「失踪したら騙される。誰も信じるな」といった投稿が多く見られ、SNSは、救いを求める外国人の悲痛な叫びが浮かび上がる空間ともなっています。

技能実習生の支援活動に携わる神戸大学大学院の斎藤善久准教授によれば、「外国人を保護すべき公的機関が、悪質な会社を排除するなどの役割を十分果たせておらず、実習生がSNSを駆け込み寺にせざるを得ない事情がある」と述べ、制度の欠陥を指摘しています。

送出し機関の問題

外国人技能実習生と彼らを取り巻く様々な利害関係者の実態が浮かび上がってきましたが、ここからは、技能実習制度において各当事者が抱える課題や本音にフォーカスして、技能実習生受入に係る問題点を整理してみます。

まず、送出し機関の問題ですが、その前に、制度上の流れを把握しておきます。制度の仕組み上、技能実習生の受入れを希望する企業は監理団体(事業組合等)に連絡することから始まります。法律上、技能実習制度としての職種が決められていますので、監理団体はこの企業の職種が技能実習制度の対象職種であるか否かを確認します。問題がなければ、一般的には、受入企業の代表者と監理団体の担当者が現地の送出し機関に面接に赴くことになります。

送出し機関に登録された「技能実習生候補者」と面接をするのですが、企業によっては、面接のほかに、実技試験や筆記試験を併せて実施してしまうこともあります。面接等の結果、合格した人が受入企業との間で技能実習生として雇用契約を締結しますが、すぐに日本へ入国できるわけではありません。

まずは、現地の日本語の教育機関において日本語や日本の職業に関する文化等を学びます。この期間は、漢字圏である中国人の場合は3~4カ月、ベトナムなど非漢字圏の実習生は、漢字の学習も必要となりますので6カ月程度が必要となります。

この間に、受入企業は技能実習生が入国するために必要な書類等を作成するなど入管手続きを進めます。受入れ企業が入管許可をとって送出し機関に必要な書類を送付し、技能実習生は、この書類とパスポートを持参して日本大使館等へ行き、ビザを取得するという流れです。

その後日本に入国しますが、1か月間は日本側の教育機関において日本語の勉強をしながら、日本で暮らすための知識を身につけます。この期間は、技能実習生の在留期間である3年の内枠に入りますので、受入企業における実際の実習期間は2年11カ月間ということになります。

このような、技能実習制度の流れを踏まえて、送出し機関が抱える問題点を指摘していきます。技能実習生は面接に合格すると、送出し機関に様々な手数料を支払わなければなりません。例えば、ベトナムの場合、この手数料については国が上限を定めていて、3年契約では3,600USドル(約40万円)以下となっていますが、実際に技能実習生が負担する額はこれを大幅に上回る金額(4,500~7,000USドル)になっているのが実態です。

これに加えて保証金が求められるケースがあります。保証金は、日本でのトラブルや失踪防止が目的であり、3年間を無事に終了して帰国すれば全額返済されることになっていますが、トラブルや失踪と言うことになれば没収される可能性が高いものです。

元来、この保証金の徴収は違法であることから、技能実習法(後述)施行後は取り締まりが強化されたこともあり減少しているとはいえ、完全になくなったわけではありません。ここまで見ただけでもかなりの負担になりますが、この他にも、送出し機関が全寮制で行う教育にかかる授業料や生活費なども必要になります。

また、場合によってはブローカーへの謝礼が必要となります。これも、高いものは数千ドルに及ぶこともあり、これらを全て合わせると、少ない人で80万円程度、多い人では150万円を超える金額を用意しなければなりません。この金額のほとんどは、実習生当人が銀行や友人から借りるか、親族が借金して賄っているのです。実習生の負担額を高額化させている大元は送出し機関といえます。

技能実習生の都合

技能実習生の多くは農村部の出身者で、国が「労働力輸出」政策を推進していることもあり、技能実習を「出稼ぎ」と捉えていることは明白です。受入企業などの面接で訪日目的を問われると、一様に「日本の高度な技術を学びたい」と回答しますが、これは、送出し機関がガイダンスにおいて、面接時にこのように答えるよう指示しているためです。

作業系派遣大手のUTグループ株式会社が、自社が管理サービスを提供している外国人技能実習生(99%がベトナム人)に対する実態調査の結果を公表していますが(2019年5月16日)、来日前の動機については、「高い収入が得られる」が65%と最も多く、次いで「日本の文化に興味があった」が46%、「高い技術を学べる」が43%という結果が出ており、この結果が本音に近いと思われます。

前述のとおり、収入額の多寡は技能実習生にとって死活問題といえますので、彼らは自分なりの計画をもって来日しています。例えば、事前準備として100万円の借金をしたが、日本で3年間働いて300万円貯め、差引200万円を帰国後の人生設計に使うという具合です。このような計算のもとでは、最大の関心事は「稼ぐための残業」に向くことになります。

基本給与が想定より低ければ低いほど残業による残業手当の稼ぎを目指すからです。彼らの日本企業に対する評価は、毎月の残業時間の多さで決まると言っても過言ではないでしょう。ただし、高収入を目指す彼らにとって最も深刻なのは、受入実習機関による賃金絡みの不法行為や不適切な対応にあります。

受入企業の本音

法務省の技能実習制度の運用に関するプロジェクトチームが公表した「調査・検討結果報告書(2019年3月28日)」には、技能実習生の失踪については、実習機関の不正行為等が絡んでいることが報告されています。その種別や件数は次のとおりです。

(表2)受入実習機関に認められた不正行為等(「調査・検討結果報告書:2019年3月28日」)

類型 件数

1)最低賃金違反

57人(51機関)

2)契約賃金違反

64人(61機関)

3)賃金からの不適当な控除

92人(86機関)

4)時間外労働等に対する割増賃金不払い

176人(156機関)

5)残業時間等不適正

223人(189機関)

6)その他の人権侵害

30人(23機関)

7)書類不備(重大)

222人(195機関)

8)書類不備(軽微)

2,060人(1,788機関)

9)その他の不正行為等

29人(25機関)

このような不正行為が蔓延する理由の一つが「人手不足」です。特に、近年の労働力不足は深刻さを増し、採用募集では応募がなく、採用できたとしてもすぐに辞めるという状況が続いています。このような状況下では、制度上は少なくとも3年間は辞めず、残業や休日出勤も厭わずに働いてくれる外国人技能実習生の存在は、溺れる者にとっての藁だといえます。

しかし、ここに企業側の身勝手な論理が見えてきます。国際貢献という高邁な思想の下で法定された外国人技能実習制度を、旧来の外国人雇用のイメージで捉えている企業のなんと多いことか。外国人だから給料も安くて良いだろうという安直な考えで受け入れに舵を切る企業が多いのです。

現在、技能実習生に限らず、日本で働く外国人に対しては「日本人と同等額以上の報酬を得ること」が在留資格を取得するための要件となっており、この要件を満たしていることを証明する書面を提出しないと在留資格が得られない仕組みとなっていること、また、監理団体の監理費や会費、送出し機関の送出し費用、ブローカーへの謝礼、渡航費、技能検定料等々技能実習生雇用ならではの費用が発生します。つまり、外国人技能実習生は安い労働力ではなく、日本人よりコストの高い労働力と考えなければならないのです。

現場、制度面から見た対策方法

このように様々な問題を抱える技能実習制度は、従来は「出入国管理・難民認定法」等によって規制されていましたが、本来の制度趣旨を徹底するとともに、技能実習制度自体の見直しと実習生の保護措置を講じることを目的に、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が施行されました。この法律施行による制度の変化は、(表3)において、旧制度の問題点との比較で確認することができます。

(表3)技能実習制度の見直しの主な内容

旧制度の問題点(根拠法令:入管難民法) 制度見直し後(根拠法令:技能実習法)

1)送出国と受入国間の取り決めのない保証金を徴収している等不適正な送出機関が存在した。

・不適正な機関の排除を目指し、実習生の送出を希望する国との間で政府間取決めを順次作成することとした。

2)監理団体や実習実施者の義務・責任が不明確であり、実習体制自体が不明確で実効性がなかった。

・監理団体は「許可制」とし、許可の基準や欠格事由のほか、遵守事項、報告の徴収、改善命令、許可の取消し等について規定。

・実習実施者は「届出制」とした。

・技能実習生ごとに作成する「技能実習計画」は個々に「認定制」とし、技能実習生の技能等の修得に係る評価を行うなど、認定の基準や欠格事由のほか、報告徴収、改善命令、認定の取消し等を規定。

3)民間の機関である(公財)国際研修協力機構が法的権限のないまま巡回指導を行っていた。

・新たに「外国人技能実習機構(認可法人)」を創設し、当機構が監理団体等から報告徴収、実地検査を行う等の業務を行わせることとした。

4)総じて実習生の保護体制が不十分であった。

・「通報・申告窓口」を整備するとともに、「人権侵害行為等」に対する罰則等を整備し、「実習先変更支援」を充実する内容とした。

5)事業所管省庁等の指導監督や連携体制が不十分であった。

・事業所管省庁、都道府県等に対し、各種業法等に基づく協力要請を実施し、これら関係行政機関で構成する「地域協議会」を設置して指導監督・連携体制を構築した。

不法行為の排除

不法行為等を取り締まるための技能実習法の施行によって、その制度趣旨を徹底するための補完措置として、日本と技能実習生の送出国との間で、送出機関や監理団体の不法な保証金徴収等の排除などを目的とした「二国間取決め」が順次進められています(2019年末における取決めの相手国は15か国超)。

しかし、法令の整備と二国間取り決めはあくまでもルールを厳格化したものであり、このルールの実効確保は、送出国と監理団体を含めた受入機関双方が、適法な制度運営を徹底することができるか否かにかかっています。

適法な制度運営を行う上では、不正行為の実態を把握しておくことも重要です。(表2)の法務省の資料で不正の内容が確認できますが、さらに、入管管理局の資料から、受入形態別の「不正行為」を行った機関数の推移がわかります。実習実施機関については、不法な低賃金、残業代不払、暴力といった文字通りの不正行為を自ら正すしかありませんが、監理団体の選定にも注意が必要です。

これまでは監理団体に問題があることも多かったため、今後は、悪質な監理団体を避け、優良な監理団体を見つけることが、技能実習生の受入れを成功させるための大きなポイントとなります。(表4-2)に、監理団体選定のチェックポイントを示しますので活用してください。

(表4-1)受入形態別「不正行為」機関数

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
企業単独型 0 0 2 2
団体
監理型
監理団体 20 23 32 35 27
実習実施機関 210 218 238 202 183
230 241 273 239 213

(表4-2)監理団体選定のチェックポイント

項目 チェック項目例
管理体制

・一般監理事業許可を取得しているか

・適正な職員の質・人数を確保しているか

・送出国の母国語を話せる職員を採用しているか

・監理可能地域が狭い範囲に限定されていないか

面接等

・面接は職員が自ら行っているか

・送出機関による採用経路、技能実習生から徴収している手数料の金額を把握しているか

講習

・入国前講習に関する管理を現地で行っているか(送出機関任せになっていないか)

・入国後講習施設を自前で構えているか

・入国後講習中に、法定外の講習(衛生教育、安全教育、5S教育、健康管理教育等)を実施しているか

受入支援

・3カ月に一度以上の監査や訪問指導、定期面談を自社内で実施しているか

・社労士資格を有する等専門的な能力を有する者によって技能実習生の賃金等の待遇確認を行っているか

・受入企業・技能実習生に対して定期的な情報提供や勉強会等を実施しているか

・受入後にも継続的な語学教育を実施することが可能か

トラブル対応

・違法行為・不法行為の内容について正確に把握しているか

・監理団体内にトラブル対応マニュアルを整備し防止・対応策を把握しているか

・不測事態(失踪、途中帰国、病気、ケガ、犯罪、ハラスメント、賃金トラブル等)に関する対応の経験があるか

受入実績

・3年以上、通算300名以上程度の監理実績はあるか

・複数の送出機関・国からの受入れを行っているか

〔安心して利用できる監理団体の要件〕

・コンプライアンス意識が強いこと。

・必要な体制が整備されるとともに法令知識が蓄積されていること。

・不測事態への対応ノウハウを有し、技能実習生の母国語での相談対応が自社で完結できるかこと、等が監理団体を見極める重要なポイントとなります。

雇用のミスマッチ防止

技能実習制度自体にも問題点が見られます。一つは、「技能実習生は原則として職場を変わることができない」という点です。制度の趣旨が「高度な技術の移転」にあるため、特定の拠点でしっかりと技術を学ぶという建前が重視されているためです。

このため、その企業が「最低賃金違反」や「契約賃金違反」、「残業代不払い」、「人権侵害」等の不法行為を行なっていたとしても、職場を変えることができない技能実習生は、3年間我慢しなければならないという境遇に陥り、やがて失踪につながるという悪循環が起きるのです。

受入れ企業は、技能実習生を労働力として見たとき、制度とは言え、技能実習生の転職の自由を奪っているという事実を認識しなければなりません。適法であることはもとより、受け入れた外国人技能実習生にとっては高度な技能を修得してキャリアを積むことができ、企業にとっては優良な労働力の確保につながるという、双方にとって有益な実習期間となるよう努めなければなりません。

2点目は、「技能実習生には企業選択の自由がない」ということです。「送出し機関の問題」で述べた通り、技能実習を希望する外国人は、自国の送出し機関に登録しています。送出し機関からの面接の連絡があると面接に参加し、合格すれば日本語を学習して訪日ということになります。

この際、ほとんどの技能実習生は、日本で稼ぐことが主要な目的であるため、自分を受け入れてくれる企業の実態を知るための情報収集を行っていないのが実情です。これが、雇用のミスマッチを生む大きな要因であり、受入企業の不法行為とあいまって、失踪を誘引することにつながります。

送出し機関は、すでに実習に参加している実習生を通じて受入企業についての情報を把握することは容易ですから、技能実習生に対して積極的に情報提供を行い、雇用のミスマッチを予防することが可能なはずです。「送出し機関」、「監理団体」、「受入れ企業」、「技能実習生」という4者の力関係を見れば、最も金銭的な負担が大きく、最も情報が不足し、最も弱い立場である実習生をフォローする責任は送出し機関にあるということに注目しなければなりません。

今後の受け入れ拡大に向けて大切なコト

送出し国との二国間取決めが機能し、技能実習法による各種規制の実効性が確保されるようになれば、悪質な送出し機関や監理団体並びに受入企業は減少すると考えられます。しかし、技能実習生の受入れを希望する企業にとっては、賃金一つとっても、「技能実習生の報酬額は、日本人が従事する場合の報酬額と同等以上でなければならない」という従来とは比べものにならない負荷が生じる上、「働き方改革」による労働時間削減圧力も加わり、成り行き次第では確実に経営体力を奪われることになります。

生産性の向上と実効性の高い体制整備

結論から言えば、成り行きに任せることはできませんので、技能実習生の受入れを念頭に置いた上で、自社の抜本的な変革が求められることになります。給与体系、キャリアパスなど従来の人事労務体系を一新し、イノベーションとの組み合わせによる生産性向上が必要不可欠のピースとなります。その上で、法律で求められる技能実習生受入のための体制を整備し、企業・実習生双方の利益となるよう適法かつ適切な制度運営に努めなければなりません。

技能実習生を受け入れるためには、技能実習計画を作成して外国人技能実習機構による認定を受けなければなりません。この計画作成にあたり、自社が備えるべき体制や実習生の待遇見直し要件等が明確になりますので、(表5)のとおり、要件を満たす体制整備とともに、法律で求められる実習機関(受入企業)の体制と技能実習生に保証すべき待遇を反映した職場環境の見直しを行うなど、受入れるための準備が必要となります。

(表5) 技能実習法・同法施行規則で求められる整備事項

整備項目 内容
実習実施者の指導体制

1)技能実習責任者の設置

実習実施者またはその常勤の役員若しくは職員であって、技能実習指導員、生活指導員等を監督し、技能実習の進捗状況全般を統括管理する者。過去3年以内に技能実習責任者講習を修了していることが要件となります。

2)技能実習指導員の設置

実習実施者またはその常勤の役員もしくは職員であって、修得等をさせようとする技能等について5年以上の経験を有する技能実習事業場に従事する者が指導員となり、技能実習の指導を行わなければなりません。

3)生活指導員の設置

実習実施者またはその常勤の役員若しくは職員であって、技能実習を行う事業上に従事する者が技能実習生の生活の指導を行わなければなりません。

実習生の待遇

1)日本人と同等額以上の報酬

技能実習生の報酬額は、日本人が従事する場合の報酬額と同等以上でなければなりません。

2)適切な宿泊施設の確保

実習実施者はまたは監理団体は、技能実習生のために適切な宿泊施設を確保する必要があります(寝室は一人4.5㎡以上)。

3)監理費の負担

監理団体から徴収される監理費を直接または間接に実習生に負担させることは禁止されています。

4)費用負担の適正額

食費、居住費等技能実習生が定期的に負担する費用について、食事、宿泊施設等を十分に技能実習生に理解させたうえで合意し、その費用が適正でなければなりません。

5)帰国旅費

帰国旅費は、企業単独型実習実施者または監理団体が負担することになります。また、第2号技能実習を行っている間に第3号技能実習の技能実習計画の認定申請を行った場合には、第3号技能実習開始時の日本への渡航費用についても第3号技能実習を行わせる企業単独型実習実施者または監理団体が負担することになります。

6)労働保険の適用

労災保険、雇用保険の加入義務があります。

7)社会保険・厚生年金等の適用

・原則健康保険加入で、適用事業所でない事業所においては国民健康保険に強制加入となります。

・厚生年金保険の適用事業所では厚生年金に強制加入、適用事業所でない事業所においては国民年金の被保険者となります。

8)労働契約上の注意

実習実施者は、雇用者として労働基準法や労働安全衛生法および労働組合法に適合した待遇を保証しなければなりません。

送出し国の変化と日本語能力の問題

2019年4月1日に施行された改正入管難民法において、新たな在留資格として「特定技能」が導入されました。特定技能1号の資格取得には、日本語と技能の試験に合格しなければなりませんが、3年以上の経験を持つ技能実習生は無試験で移行できるという取扱いとなっています。

特定技能を前提とした外国人技能実習生の受入れも視野に入ることになりますので、技能実習の対象職種と在留資格が重なる「介護」業界においては一つの光明と言えるかもしれません。しかし、この介護職については、諸般の事情からフィリピン人の受入を拡大する気運が高まっているものの、日本語能力の壁が大きな課題として浮上しています。

現在、日本への技能実習生の最大の送出し国はベトナムですが、それ以前は中国でした。中国人技能実習生が減少したのは、自国の経済が発展し、労働力輸入国に転じたことが主因と言えます。同じ理屈で言えば、ベトナムが今の技能実習生の人数規模を送出し続ける保証はありません。そして、ベトナムに次ぐのが、フィリピン、インドネシアといった非漢字圏の国々です。

これらの国の人たちは、漢字文化圏である中国に比べて日本語(漢字を含む)の習得に時間がかかるため、送出し機関のみならず、受入側における教育期間の長期化とコストの増加が懸念材料となります(ベトナムは漢字教育を廃止しましたが、もとは漢字文化園の国です)。このため、高い日本語能力を担保する観点からは、技能実習生から在留資格「特定技能」への移行を前提とした仕組みを作ることも検討しなければなりません。

まとめ

外国人技能実習生の受入れには「失踪」という深刻な問題が厳然として残っています。世界的な労働力獲得競争の中で、日本が必要な労働力を賄い続けるためには、日本で働いてよかった、日本で働き続けたいと実感する外国人労働者を増やすことが必要です。技能実習法の施行と二国間取り決めと言う改善のためのルールを実践するのは、送出し機関であり、監理団体であり、受入企業であることを再認識しなければなりません。この記事を参考に、実のある技能実習制度の運用につなげてみてはいかがでしょうか。