さまざまな職種で外国人技能実習生の受け入れが進んでいますが、過去には大きな問題も発生しているのが現実です。ニュースで見かけることもあり、これから外国人技能自習性を受け入れようと考えている企業にとっては不安材料の元になるのも無理はありません。
とはいえ、どのような問題が発生しやすいのかを事前に知っておくと、対処法も立てやすくなります。外国人技能実習生でも日本人従業員でも、問題が発生するリスクは同じようにあります。なぜ問題が発生するのか、当記事で解説していきますのでぜひ参考にしてください。
INDEX
技能実習生で起こり得る問題点
技能実習生でも日本人従業員でも、企業側が大切に扱わないとさまざまなトラブルが起こりやすくなります。ここからは、特に外国人技能実習生に起こりやすい問題点を解説していきます。
賃金の問題
まずは「賃金の問題」です。外国人技能実習制度の本来の目的は、発展途上国の人たちが日本で技術を学び、それを母国に持ち帰る制度です。しかしながら、一部の人たちの間では「安い労働力」という間違った認識がされています。
それにより、日本人従業員よりも低い賃金で雇用するというトラブルが後を絶ちません。外国人技能実習生も、日本人従業員と同じように労働基準法や最低賃金法が適用されます。そのため、各自治体で決められている最低賃金を下回る賃金で雇うことはできないのです。
長時間労働
次の問題は「長時間労働」です。賃金同様、労働基準法が適用される技能実習生においては、労働時間の上限が1ヶ月70時間までと定められています。一日の労働時間の上限は8時間、一週間では40時間までが規定労働時間です。
しかしながら、中には1ヶ月の残業時間が177時間と、法定時間を大幅にオーバーしていたというトラブルも発生しています。外国人技能実習生に残業してもらいたい場合は、労働基準監督署に届出を行い36協定を結んでいなければなりません。これは、外国人技能実習生に限らず、日本人従業員でも同じ基準になります。
さらに、残業に関しては通常の賃金よりも割増の料金を支払わなければなりません。残業時間はいくらでも延長して良いというわけではなく、1法定休日労働を覗き年間最大720時間と定められています。
失踪トラブル
「失踪トラブル」は技能実習生に多いトラブルのひとつです。ニュースで取り上げられることも多いので、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。低賃金や長時間労働など、先ほど解説した企業側の原因で実習生が失踪してしまうケースも少なくありません。
とはいえ、待遇が良いにもかかわらず失踪してしまう外国人技能実習生もいます。技能実習生には日本で過ごすことのできる在留期間に制限があり、その期限を過ぎると母国へ帰らなければなりません。日本でこのまま生活したいという思いから、失踪してしまう外国人技能実習生もいるようです。
生活におけるトラブル
次に挙げられるのは「生活におけるトラブル」です。特に来日したばかりの外国人技能実習生は、日本語でのコミュニケーションがうまくいかないケースも少なくありません。また、初めて日本に来る技能実習生は、生活習慣や文化の違いに馴染めずストレスを抱えてしまうこともあるでしょう。
ゴミ出しや交通ルールなど、日本では当たり前のことが通用しないので近隣住民とトラブルになる可能性もあります。寮や社宅を使用している場合は、同じ寮生や従業員同士で喧嘩が発生することも考えられるでしょう。
パワハラやセクハラ
「パワハラやセクハラ」といったハラスメントは、裁判にも発展しかねないトラブルのひとつです。日本人従業員におけるハラスメント問題は近年取り沙汰されることも多く、コンプライアンス強化の流れも強まってきました。
外国人技能実習生であっても、日本人従業員と同じようにパワハラやセクハラを行うことは人権侵害にあたります。とはいえ、日本語がうまく通じないストレスもあり、暴言や暴行、行き過ぎた指導などが問題になるケースも少なくありません。このようなハラスメントは決して許されるものではなく、過去には企業側への損害賠償請求が認められた事例もあります。
事件や事故の発生トラブル
「事件や事故」に巻き込まれるというトラブルも、技能実習生に起こりやすいトラブルのひとつです。技能実習生は漢字で書かれた注意喚起の看板などが読めないことも多く、それによる事故の発生率も高まっているのです。
また、外国人技能実習生をターゲットにした悪質な詐欺なども発生しています。「より高い報酬を得られる」などといった謳い文句で技能実習生を誘い出し、危険な仕事に誘導するのです。さらに、低賃金などが原因で、窃盗に走ってしまう技能実習生もいます。
技能実習生の問題が起こる理由
上記のようなトラブルは、なぜ技能実習生の間で発生しやすいのでしょうか。ここからは、技能実習生で問題が起こりやすい理由について、詳しく解説していきます。
日本語が上手ではない
最初に挙げられる理由は「日本語が上手ではない」という点です。外国人技能実習生は来日前に、ある程度の日本語を勉強していることがほとんどです。とはいえ、日本語のレベルに関してはまちまちで、十分に日本語を理解できない人も少なくありません。
そのため、必要なコミュニケーションが取れず、外国人技能実習生も教える側の日本人従業員もストレスを抱える結果になってしまうのです。会社内だけでなく、スーパーや薬局、病院などでも日本語が通じないことで不便な生活を強いられることで失踪や近隣住民とのトラブルに発展してしまいます。
悩みを相談できない
次の理由は「悩みを相談できない」という点です。誰しも会社に勤め始めたばかりの時期は、分からないことも多くストレスが溜まりがちです。日本人であれば友人や先輩に気軽に相談することができますが、外国人技能実習生の場合は気軽に相談できる相手がいません。
厳しい上司に相談することもできず、一人で悩みを抱えてしまうケースも少なくありません。一般的に技能実習生が困った時には、監理団体が相談窓口になる必要があります。とはいえ、サポート体制が整っていない監理団体だと相談窓口もうまく機能しておらず、追い込まれた技能実習生は失踪せざるを得ない状況に陥ってしまうのです。
理想と現実のギャップ
次は「理想と現実のギャップ」が理由に挙げられます。技能実習生は事前に作業中の写真や動画を見て企業の状況を伝えていますが、実際に仕事を体験しているわけではありません。コミュニケーションもうまくできない状況下での仕事がどれほど大変なのかを想像できず、実際に仕事を始めてからのギャップに戸惑う人も多いようです。
また、賃金面も理想と現実のギャップが起こりやすい部分です。日本ではさまざまな保険や年金に加入する義務があるため、実際の給料と手取り額は変わってきます。技能実習生は母国に仕送りしている人も多く、思った以上に手元にお金が残らないという現実に悩む技能実習生は少なくありません。
受け入れ側の理解不足
最後の理由として「受け入れ側の理解不足」が挙げられます。技能実習制度の本来の目的は、日本に技術を学びにくることです。その正しい目的を理解していないと、日本人従業員と外国人技能実習生の待遇に差が出てしまいます。
技能実習法第3条でも「労働力の受給の調整手段として行われてはならない」とはっきり定められています。つまり、技能実習生を「労働力の補填」として扱ってはいけないということです。この理解が不足していると「日本に出稼ぎにきた外国人」という扱いになってしまい、パワハラなど人権侵害の原因となりかねません。
技能実習生に発生しやすい問題を防ぐ方法
技能実習生に発生しやすい問題は、日ごろから防ぐ努力をする必要があります。ここからは、技能実習生に発生しやすい問題を防ぐ方法について解説していきます。
コミュニケーションを密に取る
最初の解決方法は「コミュニケーションを密に取る」ということです。先述したように、外国人技能実習生は気軽に相談する相手がいないため、一人で悩みを抱えがちです。悩みを抱え込み過ぎると、精神的な病気の原因にもなりますし失踪などのトラブルも発生しかねません。
そのようなトラブルを防ぐためにも、普段からコミュニケーションを密に取って少しの変化でも気づけるような関係性を築いておきましょう。たとえば、社内でイベントを開催したり、プライベートで食事をしたりすると技能実習生も心を開きやすくなるはずです。
労働環境を見直す
次に「労働環境を見直す」ことも大切です。賃金や労働時間など、労働基準法に則った金額や時間かどうかを確認しておきましょう。日本人でも外国人でも、待遇が良くない労働環境だとすぐに辞めてしまいたくなるので離職率が高くなります。
違法な低賃金や長すぎる労働時間は、処罰の対象ともなるので注意しましょう。外国人技能実習生が「このままここで働きたい」と思えるような職場環境を作ることで、企業のイメージアップにも繋がります。ぜひこの機会に、労働環境を見直してみてはいかがでしょうか。
現場の社員に正確な情報を伝える
「現場の社員に正確な情報を伝える」ことも、予防法のひとつです。技能実習制度の正確な理解については、上層部だけでなく現場の社員にも周知しておかなければなりません。また、国によって習慣や文化は違うので、ちょっとしたことでトラブルが起こる可能性があります。
挨拶ひとつでも、お互いが嫌な思いをしないようにそれぞれの生活文化を知っておく必要があるでしょう。定期的な研修や周知を行うことで、外国人技能実習生が平等に扱われる雇用体制を作っていくようにしましょう。
分かりやすく規則を説明する
技能実習生に対しては、日本人従業員に対するよりも「分かりやすく規則を説明する」必要があります。特に働き方や賃金についての規則は、事前にしっかり説明しておくことで「聞いていた話と違う」というトラブルを避けることにつながります。
できれば契約書は技能実習生の母国語で作成するなど、分かりやすいものがおすすめです。難しい場合は、通訳を用意することも検討してみてください。内容はできるだけ具体的に伝えましょう。たとえば、残業や日曜出勤があること、高所作業など作業環境についても伝えておくことが大切です。
技能実習生で問題が発生した場合の解決方法
さまざまな対策をしていても、技能実習生で問題が発生してしまうこともあります。ここからは万が一、問題が発生した場合の対処法について解説していきます。
監理団体へ連絡する
まずは「監理団体は連絡する」ようにしましょう。監理団体は技能実習生の相談窓口でもあるため、もしかしたら実習生の悩みを聞いている可能性もあります。基本的には、悩みを受けた監理団体は企業と連携を取って解決に努めることになっていますが、漏れている可能性もあるので聞いてみることをおすすめします。
技能実習生が失踪してしまった場合も、速やかに監理団体へ連絡してください。実績のある監理団体であればこれまでにもさまざまなトラブルに対応してきているため、どのような対応を取ったら良いのかを具体的に教えてくれるでしょう。
警察へ連絡する
状況によっては「警察へ連絡する」必要もあります。特に事件や事故に巻き込まれた場合は、直ちに警察へ連絡しましょう。技能実習生と連絡が取れない場合も、事件に巻き込まれた可能性があるので警察への連絡が必要です。
普段から技能実習生と仲良くしていた従業員がいれば、事前に話を聞いておきましょう。もしかしたら悩みや困りごとを聞いている可能性があります。パスポートや貴重品が部屋に残っていないかどうかも、失踪の手がかりになりますので確認しておきましょう。
まとめ
技能実習生で起こり得る問題点と解決方法について解説してきました。技能実習生と聞くと「トラブルが起こりやすいのではないか?」と思われがちですが、事前説明やコミュニケーションを密に取るなど適切な対応をしておくことでトラブルを防ぐことが可能です。
外国人技能実習生でも日本人従業員でも、同じ従業員に変わりはありません。一人の人間として向き合い、日本人従業員と同じように扱うことで外国人技能実習生が働きやすい環境を作ることができるでしょう。