人手不足に悩まされる企業では、外国人技能実習生の受け入れが積極的に行われています。これから外国人技能実習生を受け入れる場合、気になるのは「給料をいくら支払わなければならないか」という点でしょう。
適正な給料額で外国人技能実習生を雇うためにも、相場がどれくらいになるのかを知っておく必要があります。そこで、当記事では技能実習生の給料がいくらになるのか、また支払い方法や年金・保険などを分かりやすく解説していきます。これから外国人技能実習生の受け入れを検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
INDEX
技能実習生の給料について
外国人技能実習生の給料は、いくらでも良いというわけではありません。技能実習制度で定められた方法に基づき、適正な額の給料を支払う必要があるのです。ここからは、外国人技能実習生の給料について解説していきます。
最低賃金
企業が支払う給料は、必ず「最低賃金額」をクリアしている必要があります。この「最低賃金」の額は、外国人技能実習生についても例外ではありません。
最低賃金以下での雇用契約は無効となり、発覚した時点でこれまでの差額分を支払うことが要求されます。過去には、外国人技能実習生に対し、最低賃金以下で雇用契約を結んだことでトラブルに発展した事例も発生しています。
不当な待遇は企業のイメージ低下や社会的信頼の失墜にもつながりますので、決してしないようにしましょう。最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」があり、両方適用される場合には高い方が最低賃金となります。
最低賃金は毎年各都道府県で協議され、最終的な金額は厚生労働省から発表されます。2022年の地域別最低賃金の全国平均は約961円でした。最低賃金は都道府県によって異なりますので、詳しい金額は厚生労働省からの資料を確認するようにしましょう。
割増賃金
残業や深夜残業、休日労働については「割増賃金」が適用されます。割増賃金についても不当に支払われていないというケースが発生していますので、漏れのないようにしておきましょう。
割増賃金は労働基準法により、下記のように定められています。
- 時間外労働に対する賃金は25%以上
- 深夜の業務(午後10時から午前5時まで)に対しての割増賃金は25%以上
- 休日労働については35%以上
時間外労働や休日労働は労働基準法第36条で定められていることから、「36協定」と呼ばれています。時間外労働や休日労働については限度があり、割増賃金を支払えば無制限に時間外労働が認められるというわけではありません。
時間外労働や休日労働は必要最小限にとどめ、どうしても発生する場合には定められた割増賃金を支払うようにしましょう。
賞与
賞与は法律で支払いが定められているものではなく、企業の実績に応じて支払われるものです。外国人技能実習制度においても、技能実習生に対して賞与を支払わなければならないという旨は記載されていません。
そのため、賞与の支払いについては、各企業で判断することになります。そもそも賞与は従業員の労働意欲向上を目的として支払われていることがほとんどです。外国人技能実習生に対しても、正当な評価に基づく賞与を支払うことでモチベーションを上げることができるでしょう。
日本人従業員の給料と価格差を付けることは可能?
これまでの内容からも分かるように、外国人技能実習生にも労働基準法が適用されるため日本人従業員に対する待遇と大きな違いはありません。外国人技能実習生であろうと日本人であろうと、正当な評価に基づく適正な給料を支払う必要があるのです。同じ職場で同じ作業をしているにもかかわらず、日本人よりも低い給料というのは正当な扱いとはいえません。
とはいえ、来日したばかりの外国人技能実習生の場合、日本語があまり上手ではない人も少なくありません。任せられる仕事も限られてくるため、どうしても日本人の従業員と比べて給料は低くなってしまうでしょう。最低賃金や割増賃金の条件をクリアしている正当な給料額であれば、問題はありません。
外国人技能実習生の給料相場は?
外国人技能実習生に対する給料は具体的にいくらになるのでしょうか。ここからは、日本における外国人技能実習生の給料相場や、他の国と比較した場合について解説していきます。
日本における外国人技能実習生の給料相場
厚生労働省が発表しているデータによると、令和元年の外国人技能実習生の平均賃金は156,900円です。就業場所や職種によっても変わってきますが、相場は15~20万円のところがほとんどです。日本人の高校を卒業したばかりの新入社員の初任給の平均が167,400円なので、これと同じくらいの水準といえます。
在留外国人労働者の平均賃金は223,100円なので、技能実習生の賃金平均がかなり安いことが分かります。また、令和2年の25~29歳の日本人正社員の賃金平均249,600円と比較しても、外国人技能実習生の給料が低いことが分かるでしょう。安すぎる賃金は、技能実習生の失踪や途中帰国の発生原因になります。
とはいえ、2011年の平均賃金は12万円と今よりも非常に低い額でした。最低賃金が上がってきていることも影響し、年々増加してきているのも事実です。外国人技能実習生を「安価に雇える労働力」と考えるのではなく、正当に扱うことで今後来日する外国人技能労働者の減少を抑えることができるでしょう。
世界から見た日本の給与レベル
世界的に見ると日本の外国人技能実習生に対する賃金や待遇はあまり良いとは言えず、技能実習生の日本離れが進んできています。2019年まではベトナム人の派遣先として日本が一位を維持していましたが、2021年には台湾が日本を抜き一位に浮上しました。
さらに、2022年9月にはベトナムとオーストラリアは農業労働者の派遣・受け入れ協定を結び、給料は30~38万円とかなり高額に設定されています。また、韓国の方が同じ実習内容で高い賃金を得られるとあって、韓国へもかなりの優秀な実習生が流れているのが現状です。
円安の影響もあり、日本離れが加速している現状を打破するためには賃金や待遇を改善することが必要不可欠です。事業所の中には、外国人技能実習生の存在でなんとか事業を続けられているところもあります。今後も外国人技能実習生を受け入れるためにも、各企業が待遇の見直しをしていく必要があるでしょう。
技能実習生への給与の支払い方法
給与の支払は下記の5つの条件を満たしている必要があります。
- 通貨で支払う
- 直接技能実習生へ支払う
- 給与の全額を支払う
- 毎月1回以上支払う
- 一定の期日を定めて支払う
ただし、外国人技能実習生の同意を得ている場合に限り、通貨支払いではなく口座振り込みも可能です。金融口座の開設が必要になるので、事前に技能実習生へ確認する必要があるでしょう。
また、全額払いが原則ですが、税金や社会保険料、寮費や食費など労使協定が締結されている費用については賃金から差し引くことができます。基本的には日本人従業員と同じ対応と考えておけば、間違いないでしょう。
外国人技能実習生の有給は?
外国人技能実習生も、日本人従業員と同じように有給休暇を取得することができます。有給休暇が取得できるのは、入社後6ヵ月以上継続して勤務した場合です。ただし、全労働日の8割以上出勤していることが条件になります。
週に5日以上、または所定労働時間が週30時間以上ある場合には下記の有給日数が付与されます。
- 勤務期間6ヵ月:10日
- 勤務期間1年6ヵ月:11日
- 勤務期間2年6ヵ月:12日
有給休暇は労働基準法で定められているため、企業の判断で有給を取得させないというのは違法です。有給を取得した外国人技能実習生の賃金を減額するなど、不当な扱いをすることも認められていません。
外国人技能実習生の年金・保険
ここからは、外国人技能実習生の年金や保険について解説していきます。基本的には日本人従業員と同様、さまざまな保険に加入させることが必要です。具体的にどのような保険に加入させるのか、詳しくみていきましょう。
雇用保険
雇用保険は国が運営する保険制度です。農林水産業の一部を除き、労働者を雇用する事業所はすべて保険に加入する義務があります。たとえ、外国人技能実習生に加入意思がなかったとしても適用されるため、企業側は注意するようにしましょう。
雇用保険に加入することで、雇用継続が困難になった場合に失業手当などを受給することができます。雇用保険料は企業だけでなく、労働者も一部を負担しなければなりません。外国人技能実習生であっても同じ制度になるため、負担分は給料から差し引かれます。
労災保険
労災保険とは、通勤中や業務中に負った傷病に対して必要な保障を行う制度です。従業員を一人でも雇用する事業所であれば、強制的に適用されます。雇用保険と同じく、外国人技能実習生に加入意思がない場合でも未加入は認められません。
外国人技能実習生は日本や事業所に不慣れなこともあり、怪我が発生しやすい傾向にあります。労災保険に加入していることで、労働災害が発生した場合でも企業は補償責任を免れることができるでしょう。労災保険の保険料は、事業所が全額負担となります。
健康保険
健康保険も加入が必要な保険のひとつです。企業の多くは、全国健康保険協会の「協会けんぽ」か健康保険組合が運営する「組合管掌健康保険」のどちらかに加入することがほとんどです。事業所で決められた健康保険に加入しない場合には、国民健康保険に加入しなければなりません。
国民健康保険は在留期間が3ヶ月を超える外国人すべてに適用される保険です。入国後講習中の技能実習生は市町村運営の国民健康保険に加入し、講習終了後は企業によって決められた健康保険に切り替えることがほとんどです。講習期間中の国民健康保険料は実習生の負担ですが、健康保険に切り替えてからは事業主と折半になります。
総合保険
外国人技能実習生総合保険は民間の保険サービスで、任意加入となっています。突発的な事故や病気による費用を100%補償してくれるため、万が一の時でも経済的負担がありません。入国から帰国までのすべての期間をカバーしているので、技能実習に集中することが可能です。
公的保険が受けられない場合には治療費の全額、公的保険が適用される場合で自己負担分の3割の補償を受けられます。死亡や後遺症、賠償責任や家族の呼び寄せといった補償にも対応しています。公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)が窓口になっており、割安で契約できるので加入する技能実習生がほとんどです。
年金
公的年金制度は老後の保障だけでなく、障害や死亡といった事態にも対応する制度です。国籍を問わず20歳以上60歳未満のすべての人に適用されるため、外国人技能実習生も加入しなければなりません。
とはいえ、入国後講習中は収入がないため、免除申請を行うことで国民年金の支払いが免除されます。講習終了後は厚生年金の支払い義務が発生し、企業と技能研修性で折半して毎月の保険料を支払います。
もし、就業先が厚生年金適用でない場合には、本人が国民年金に加入する手続きをしなければなりません。また、実習生が帰国する際には「脱退一時金」を受け取れるケースも。申請期限は2年以内と決められていますので、年金事務所に問い合わせるように促してみましょう。
まとめ
外国人技能実習生の給料がいくらになるのか、解説してきました。外国人技能実習生だからといって、日本での労働基準法が適用されないわけではありません。最低賃金や割増賃金は日本人と同じ基準が適用されるので、不当な給料額とならないように注意しましょう。
賞与については支払い義務がないため、企業の判断となります。ただし、外国人技能実習生のモチベーションアップのためにも、日本人従業員同様に賞与の支払いを行う企業がほとんどです。
保険や年金についても日本人従業員と同じ扱いとなります。雇用契約の際に説明したうえで、給与から差し引くようにしましょう。来日直後の外国人技能実習生の場合は、日本語がうまくないために給与面でトラブルに発展するケースも少なくありません。トラブルを避けるためにも、しっかりした説明や書面で記録を残しておくことが重要になります。